ちょここの日記

ミュージカル初心者のブログ

『ミス・サイゴン 25周年記念公演 in ロンドン』を視聴

2022年夏、『ミス・サイゴン』の再演が発表されました。

 

ミス・サイゴン、題材や登場人物に苦手意識がかなりあって。映像作品があることを知っていながら、手を出していなかった。特に、キムの最期がどうしても受け入れられなかった。子供を自分の命より大事だと思える母は、自ら息子を残して逝かないよ・・・。

 

でも2022年夏の上演では、海宝直人さんが再キャスティングされる可能性があるようで。大好きな役者さんなので、1回だけでも観に行きたいと思い、ウエストエンド版で予習です。

 

ミス・サイゴン 25周年記念公演 in ロンドン』

 

結果、ドはまりしました。

エリザベートとかレ・ミゼラブルにはまって、関連する時代の歴史本などを読む方の気持ちが初めてわかった。

以下、感じたことを覚書。

 

①音楽が圧倒的すぎる

②登場人物たちの生々しさ

③相当痛烈なアメリカ批判?

④2022年日本版への妄想

 

①音楽が圧倒的すぎる

これぞ、グランドミュージカル!な重厚さと迫力、そして旋律の美しさ。アンサンブル含めキャストの歌唱もこれ以上ないほど、圧巻だった。もし劇場で初見だったとしたら、絶対にこの音楽に飲まれてストーリ―に対する冷静な感想はどこかに行ってしまいそう。とにかくすごい迫力だった!以上!とかで終わりそう。ストーリーの重さは脇においといて、頭からっぽにして、音楽を味わえばそれでいいやと思ってしまうくらい。そういう意味では、家でまず映像を観て、ストーリーにも思いを巡らせておいて、いざ劇場へという流れで私的にはよかった気がする。まだチケットとれるかもわかりませんが。 でも本当に、音楽に圧倒されるだけでは終われないと思わせる、重くて多重的なテーマをもった作品だと思う。重い題材×ミュージカルの相性の良さを改めて感じた。

 

②登場人物たちの生々しさ

登場人物達が生々しい「実在の人物」のように感じられたことに驚いた。キャストが多人種で構成されていて、視覚情報からのリアリティが強かったからかもしれない。ベトナム戦争という、近すぎる出来事をテーマにしているせいかもしれない。私はぎりぎり20世紀生まれだし、登場人物と自分が「ほぼ同じ時代」を生きている感覚がすごく強かった。だから、直観的に自分のフィルターで彼らの行動を理解しようとしてしまったのだけど、間違いだった。戦争も知らず、護身用の銃も握ったことのない私には、表面的には同質に思えた登場人物の気持ちの移り変わりや動機が、まったくわからなかった。理解できそうなんて、そんな生易しいものではなかった。共感もできずに、なんでそうなるの?なぜそこで?という疑問の連続。観終わっても1週間くらい悶々と考えていた。そして、ベトナム戦争の資料を読み漁る始末。個人的に、そこまで「理解すること」に執着したミュージカルは初めてだった。でも、理解できるはずというスタンス自体、傲慢なのかもしれないと思ったり。今もよくわかってません。だから日本版で、同じ国で育った同世代の役者さん達が演じる姿をみて、その解釈を感じることで腑に落ちる部分もあるのかなあ、と来年を心待ちにしています。

 

 

③相当痛烈なアメリカ批判?

これはベトナム戦争について勉強するほどに思ったことで、クリスのグダグダ加減には「アメリカ兵」だけでなく国家そのものへの批判が詰まっている気がした。自分のことだけで精一杯ななか、相手を守る、救うと大風呂敷を広げて、戦況が悪くなると「仕方がなかった」といいながら安全なところへ帰り、俺だって苦しんでるんだと訴えて、結局「異文化、理解できない、怖い」と切り捨てて片づける。本来、兵士が本国に帰還すればその功績を讃えられるはずが「why god why」で歌われるように、帰ってもクリスの居場所はなかった。報われなかった虚しさとベトナムで米軍が行ったことへの罪悪感から逃げるように、キムのヒーローになろうとした。ご都合主義の正義を振りかざしたアメリカのヒロイズムを重ねずにはいられなかった。そして、そういった行動の結果残されたのはブイ・ドイ達なのだ、と突きつけられたラスト場面。重すぎる後味。

 

そんなクリスに比べればジョンはまっとうな人に見えた。女は買うけれども、初めからそれ以上でもそれ以下でもないのだとわかったし、相手にもわからせていた。だから、2幕で彼がブイドイを歌い、慈善活動をすることは自然な流れなんだなと。はじめは、なんで急に善人キャラに??と思ってしまったけれど。「優しさ」というのは自分に何ができるか、そしてできないかを自覚して自制できることなのかもしれない。

 

 

④2022年ミス・サイゴンへの妄想

色々とこねくり回して考えたけれど、2022年夏、実現するのなら海宝クリスの歌声でビシバシ殴ってもらえるだけで本望かもしれない・・・。いや本音でいうと、公式HPのキャッチコピー?からちょっと不安になっています。

ミス・サイゴンーそれは、命をかけて貫いた愛」

え?そこ?みたいな。戦争ものであることや社会派メッセージを全面に出すと商業的に微妙なんだろうな?とは思いますが。

私はクリス=ろくでなしと思いたい。だから、クリスがキムに対してそうせざる負えなかった背景を肉付けられて「うん、仕方なかったよね」と納得してしまうようなクリスを演じられたら困る。クリスも本当はごく普通の人なんだよ、すべては戦争のせいだ、みたいな感じは嫌だ。(どこまで妄想力豊かなのだろう。)参戦を決めた国家が最大の悪でそれに翻弄された一個人、というアングルはあるにせよ、そこで納得したくない。国家だけでは、ブイ・ドイは生まれなかった。キムも、タムを思うが故、母性からの死なんかではなくて、トゥイの件でもう精神的に倒錯していて、クリスへの最後の希望も絶たれて、それをすべて背負うには幼すぎた彼女の絶望・衝動を感じたい。もし、ただの悲劇のヒーローとヒロインの匂いがしたら、完全に音楽を楽しむ心構えでいこう。2020年と同じメインキャストならば、海宝さんと昆さんのペアを観たい。歌のボクシング。トゥイは西川さん観たい。クロネコチャンネルでのミス・サイゴンのお話に興味津々。今のはまりっぷりが続いていたら、繰り返し観に行ってしまいそう。

 

 

共感できない=苦手だと思っていた私にとって、ミス・サイゴンは新しい楽しみ方を発見した作品になりました。わからないものを時間をかけてあーだこーだ考える過程は楽しかった。舞台で観ていない時点での感想なんて貧弱なものだけど、自分の見解をきちんと言葉にしてひとまずすっきり。

食わず嫌いはよくない。

これを機に、私の最大の食わず嫌い、2.5次元ミュージカルにも手を出そうか?